AIにいくら使うか。その判断が、上場企業と非上場企業で分かれはじめています。角川アスキー総合研究所が2026年8月10日に発表した調査によると、AI投資を増やす見込みの企業は上場で80.1%、非上場で50.0%でした。非上場でも二社に一社は増やす構えです。ただし上場との間には30ポイントの開きがあります。
調査はインターネットアンケート(マクロミル モニターパネル)で、2026年4月24日から25日にかけて行われました。1万人に予備調査をかけ、条件に合う310人から回答を得ています。答えたのは、上場企業または従業員300人以上の非上場企業に勤める経営者・役員と従業員です。結果は8月20日発売の『AI白書2026』に掲載されます。
ここで一つ断りを入れます。この調査でいう非上場企業は、従業員300人以上に限られています。年商10億から100億の会社の多くは、この母集団の外にいます。以下の割合は、自社より一回り大きい会社の姿として読むのが妥当です。投資を増やす割合も、効果を測れている割合も、規模が小さくなるほど低く出るとみられます。一方で、後半に出てくる、会社が認めていないAIの利用は、統制の仕組みが薄いぶん、小さい会社のほうが多いことも考えられます。
「AIで人を減らす」より「AIも人も増やす」が多数派
投資を増やす企業でも横ばいの企業でも、間接部門の人員を減らすと見込む割合は約14%で、差がありませんでした。調査を行った角川アスキー総合研究所は、この結果を「AIで人を減らす」よりも「AIも人も増やす」シナリオが多数派だとまとめています。
人が減らないのであれば、AIに投じた費用は人件費の削減では返ってきません。返る先は、同じ人数で扱える仕事の量と質です。数字にすれば、1人あたりの粗利になります。募集をかけても人が集まりにくくなっていることを考えると、そもそも減らす余地がないという事情もありそうです。いずれにせよ、AIの投資判断を削減できる人数で測ると、実態から外れていきます。
生成AIの効果を数字で測れているのは、非上場で13.7%
生成AI導入の効果を定量的に把握できていると答えたのは、上場で37.0%、非上場で13.7%でした。非上場では7人に1人ほどです。残りの人は、効果を数字で示せていないことになります。
測っていないと、次の投資判断ができません。「なんとなく速くなった気がする」で止まってしまうと、来期に予算を守る根拠が出せず、経費削減の話が出たときに削られやすくなります。ただ、削られない状態を作るのに難しい計測は要りません。業務を一つ選び、AIを使う前と後で、かかった時間と手戻りの回数を並べる。それだけでも判断の材料になります。
測る対象は、金額の前に時間で構いません。見積書の作成に何時間かかっていたか。日報や報告資料をまとめるのに毎日何分使っていたか。承認を待つ間、案件が何日止まっていたか。こうした数字は、担当者に聞けばだいたい答えが返ってきます。厳密な原価計算をするより、前と後を同じ物差しで並べられることのほうが大事です。
上場企業がここで先行しているのは、株主や監査に対して数字で説明する習慣があるからだと考えられます。オーナー企業の場合、決まった形式で外部に説明を求められる場面は、上場企業ほど多くありません。銀行や税理士への説明はあるにせよ、AIの効果を毎期問われるわけではない。その分、測る物差しは自分で決めて置くことになります。
ガイドラインを整備しても、公式外のAIは使われている
この調査でもう一つ目を引くのが、会社が公式に認めていないAIを社員が業務で使う状態、いわゆるシャドーAIの広がりです。使った経験があると答えた人は、管理職で46.5%、一般社員で38.1%。管理職のほうが高くなっています。
そして、全社共通のガイドラインを整備した企業でも、公式外AIの業務利用経験は46.9%に上りました。一部だけ整備した企業の50.0%と大差ありません。なお、まったく整備していない企業の数字は公表されていないため、整備によって下がったかどうかまでは、この調査からは判断できません。ガイドラインを全社で整備している割合そのものにも差があり、上場45.9%に対して非上場は29.1%です。
少なくとも、ガイドラインを全社で整えた会社でも、そこで働く人の半数近くが公式外のAIを業務で使った経験がある、という事実は残ります。禁止を強めるほど、見えないところで使われやすくなります。実務としては、禁止の線を引く前に、使ってよい道具を配るほうが先だと考えています。社員が個人のアカウントで使ってしまうのは、多くの場合、会社の用意した手段がないか、あっても使いにくいからです。
危ないのは道具そのものというより、顧客情報や見積の中身が会社の管理の外へ出ていくことです。そこだけを機械で止め、残りは自由に使えるようにする。当社でも、社外に出す文書は人が読む前に機械の検査を通し、顧客名や未確定の金額が残っていれば、公開の手前で止まる形にしています。人の注意力だけを頼りにしない、という考え方です。
この調査から読み取れること
整理します。非上場でも半数が投資を増やす構えでいる一方、間接部門の人員を減らす前提を置いている会社は1割台にとどまり、多数派はAIも人も増やす方向を見ています。その一方で、生成AIの効果を数字で測れているのは非上場で13.7%。現場は、ルールの整備を待たずにAIを使いはじめています。
私たちは、測る物差しを置くのが先だと考えています。何を減らしたいのか、どの業務で、前と後をどう比べるのか。ここが決まっていれば、道具の選定も、使ってよい範囲の線引きも、後から筋道立てて決められます。物差しがないまま道具だけを増やすと、効果を説明できない費用が積み上がり、いずれ「AIは高い」という結論だけが社内に残りかねません。
最初の一歩は、社内で一番手間のかかっている業務を一つ選び、いまかかっている時間を紙1枚に書き出すところからで十分です。その1枚があれば、AIを入れた後と比べられます。比べられれば、次にどこへ投じるかも決まります。やることは、それだけです。この調査が示しているのは、効果を数字で示せていると答えた人が、従業員300人以上の非上場企業でもまだ13.7%にとどまる、という事実です。
出典: 8月20日発売『AI白書2026』独自調査「企業における生成AI導入の投資・統制・成果実態調査」を発表(株式会社角川アスキー総合研究所・2026年8月10日)
株式会社MICOTOは「AIで人の志を高める」を掲げ、AIを現場に実装する「AI棟梁」と、経営そのものをAIで回す「AI経営本部」に取り組んでいます。ご相談は micoto.io から。